サッカー日本代表「ベスト8」に向けて犯した2つのミス

サッカーワ-ルドカップがいよいよ佳境に差し掛かってきました。

わが日本代表は「ベスト8」の目標を掲げてのチャレンジでしたが、残念ながら、またしても悲願達成はなりませんでした。

強豪ドイツとスペインを倒したことは奇跡のような出来事であり、賞賛以外の言葉はありませんが、ここまできたら、やはり、「壁」を突破して欲しかったし、間違いなく「できたはず」ではないか?と思っています。

私はサッカーについては素人なので技術や戦術的な事はわかりませんが、「人の心理」という目線で考えると、ほんの少しアプローチを変えるだけでクロアチアには勝てたと思っています。

理由は2つあります。

一つ目は目標設定の仕方です。

脳科学的には「目標」の設定によって勝敗が分かれるという事は良く言われていて、代表的なのは「水泳日本チーム」にコーチとして帯同した林さんという脳科学者が、パフォーマンス向上のために行ったゴール設定の仕方です。

通常水泳は「壁にタッチ」することがゴールになるわけですが、ゴールを目の前にすると「人の心理状態」は変化し、「力んだり」「緊張したり」でパフォーマンスが落ちるという事がわかっていました。

野球でも勝利がかかった最終回で「ここを抑えれば勝てる」と言う意識が強くなりすぎた投手が四球連発で崩れる場面がよく見られるのも目の前に「ゴール」が迫ってきて必要以上に「緊張したり」「力んだり」するからです。

それで林さんがまず行ったのが、ゴールの設定を変えるという事だったのです。

最近、水泳競技をTVでご覧になった方はお気づきかもしれませんが、選手たちは壁にタッチしてから、一様にある行動をとっています。

それは振り返り、「掲示板のタイムを見る」という事です。

つまり、ゴール設定を「壁にタッチ」ではなく、「タイムを確認する」にしたのです。

これによって、実際にコンマ何秒のタイムが向上が見られたそうです。

人は誰しも、ゴールが目の前に迫ってくると緊張したり、力んだりする。

その心理を利用して「ゴール設定」を変えたのでした。

サッカー日本代表に話を戻すと、ペナルティキックの結果如何で目標としていた「ベスト8」に進めるかどうかが決まる、痺れるような場面では、選手たちに相当なプレッシャーがかかったことは容易に想像がつき、パフォーマンスが落ちるのは当然の事だと思われます。

では、どうすれば良かったか?という事ですが、決勝トーナメントに進出が決まった段階でゴールを「ベスト8」ではなく、「優勝」に軌道修正するか、韓国が作ったアジア記録である「ベスト4」にすれば、良かったと思います。

そうすれば、「ベスト8」はたどり着きたいゴールではなくプロセスなので、「こんなところで負けるわけにはいかない」という強い気持ちを持ってPK合戦に臨めたのではないか?と思います。

実際に今回、決勝トーナメントに進出できたのは「ベスト16」を「目標」とするのではなく、「通過点」にしたことも大きな要因であったと考えられるからです。

とは言え、決勝トーナメントで一度も勝ったことがないチームがベスト4や優勝を掲げるには勇気と根拠が必要なので致し方ない面もあったと思いますし、ドイツやスペインと同じ組になった段階で「本音」のゴールは「ベスト16」だったのではないか?と私は思っています。

だから、決勝トーナメント敗退でもサッカー協会的にはOKだったのでしょう。

あと、もう一つ変えるべき事は「PKの順番の決め方」です。

「挙手」で順番を決めたそうですが、「一番目に蹴りたい人?」と選手たちに聞いても5秒くらい誰も手を挙げなかったそうです。

この場面での「5秒」って結構長いですよ。

実は、この段階で「勝負あり」だったと私は思っています。

つまり、PK合戦を想定した準備ができていなかったという事です。

それで、仕方なく?「南野選手」が手を挙げたわけですが、緊張で気持ちが弱くなっていた時に相当なプレッシャーに中で蹴ったボールが止められたとしても誰も彼を責める事は出来ません。

選手たちの自発性を大切にしたのかもしれませんが、一方で責任を「選手達」に委ねたという見方もできます。

「本田圭佑」のような人が居れば、また違ったかもしれませんが、ここは、監督が順番を決め、「これで行く。責任は俺が持つ。思いっきり蹴ってこい‼」と送り出してあげたら、もしかして、結果が変わっていたのではないか?と思っています。

監督と選手たちの関係性が良かったようなので、一層そう思えてなりません。

まぁ、結果論ではありますが、このように勝負の綾は、ちょっとしたことで揺れ動きます。

日本のスポーツにも以前よりは、メンタルトレーニングやコーチングが導入されてきていると思いますが、世界に打ち勝つには、正直、まだまだ不十分なのかもしれませんね。

ところで、リーダーシップの形は、トップダウンではなく、メンバーの主体性を活かすスタイルが良いとされているのが、最近の風潮であり、私もそこを目指して「人材育成」を行っているわけですが、今回の森保監督の采配を見ているとここぞという場面では、トップダウンも必要ではないかと思います。

平常時は、部下たちのコミュニケーションを活性化させ、主体性をどんどん引き出して行く事が大切ですが、誰も手を挙げたがらない、あるいは膠着する、議論が停滞するような場面においては、上司が決めなくてはいけない。

大切なのは、状況によって使い分ける事です。

そのためには、メンバーを観察し、感情を敏感に感じ取り、出し入れができる能力が必要です。

今回のサッカー日本代表の姿を見て、改めて、今に時代に合ったリーダー像が明確になったような気がしますし、私自身もコーチとしての研鑽を積んでゆきたいと改めて思いました。

さて、スポーツにおける次の楽しみは、来年3月開催のワールドベースボールクラシック(WBC)。

どんなドラマとチームマネジメントが見られるのか?
今から楽しみです。