部下に合わせる個別対応型コーチング
「上司に合わせる」から「部下の状況に個別で対応する」へ
今日は部下に対する個別対応のお話しをします。
一昔前は一般的に「上司に合わせる」のが当たり前でした。
それは、多少不満はあっても、素直に言う事さえ聞いていれば、それなりに実績も上がって給料も上がったからです。
でも、「答えのない時代」と言われる今は、そうはいきません。
部下一人一人のキャリアや能力、個性に合わせた対応をし、能力を高めて行く事が求められているのです。
そして、個別対応について、成否のカギを握っているのが、プレイングマネージャーの「コーチング能力」です。
ここで言う「コーチング能力」とは一般に言われている「コーチング」とは違い、「コーチング」を包括した能力を言います。
なぜ、コーチング以外の能力も併せて必要になるのかと言うと、部下の成長や個性の違いによって、一般的な「コーチング」が有効でない場合も多々あるからです。
本来のコーチングは主体性(自分でどんどん考えて、動ける人)を持った部下に対しては有効ですが、そうでない部下に対しては、段階を経て主体性を覚醒させ、コーチングが機能する状態まで育ててゆく必要があります。
基本、受け身で「言われたこと」は真面目にやるけど、それ以上は何もしないというような部下には、コーチングは機能しません。
なので、コーチング部下の成長に合わせて対応を変えてゆく必要があります。
例えば、キャリアの浅い部下に対しては「ティーチング」や「アドバイス」、「コンサルティング」が必要な場合もありますし、メンタルが落ちている部下には「カウンセリング」の要素も必要になります。
従って、今回私が言う「コーチング能力」はこれらの根幹のスキルであり、包括したものになります。
考え方としては、基本をコーチングに置き、相手の状況に合わせて必要なかかわり方を出し入れしてゆくという感じです。
では、どのように出し入れしてゆくかという事ですが、考え方の一つとして「意欲」と「技術」を軸に考えるというやり方があります。
シチュエーションリーダーシップと言われるもので、別名SL理論とも言われています。
縦軸に意欲の高低、横軸に技能の高低というマトリクスを使い、部下達を4つの領域に分けて、それぞれに適した接し方を考えるというものです。
ご興味がある方は「1分間リーダーシップ」(ケン・ブランチャード著)という本に書かれていますので、ご一読いただくと良いと思います。
私は、それを日本人に合った形でアレンジして応用しています。
4つの領域と対応の仕方は以下の通りです。
1. 意慾が高くて、技能が低い(新人のような若手)
やる気はあるけど、経験や知識、スキルが足りないという人です。
自信を育ててゆく事が需要テーマになるので「知識」や「やり方」を教え、承認、モチベーティングを含めて、存在価値(自信、他者からの信用)を創って行く事がポイントになります。
2. 意欲がいまひとつで、技能も伸び悩んでいる
入社後、数年が経過しているが、期待されているほど「伸びていない」方々が当てはまります。
自信の欠如を始め、何らかの理由で「作業的」な働き方になっている。
経験を重ねるにつれて、自分が描いていた理想との違いや難しさがわかってきて、フラストレーションや意欲が減退している可能性のある人です。
こういう方には、「自信を与えてゆく事」と何が問題なのか?「課題の整理」を一緒に考えながらフォローをしてゆくというコンサルティング的な関わり方と前進する為のモチベートが中心になります。
3. 技能はある程度あるが、意欲がいまひとつ
ある程度熟練している方で、実力はあるけれど、どこか割り切り感が漂っていたり、自己評価が低い人などが当てはまります。
4つの領域の中では、一番難易度が高いと言っても良いかもしれません。
それは、ある程度の期間、同じ状態が継続しているからです。
関わり方としては、割り切りに繋がっている原因やその人のモノの考え方を一緒に考え、承認しつつ、未来に目を向けさせたりすることで意欲を掻き立てたる。
また、自己評価が低い人には、その原因となる根拠を一緒に考え、価値観の起源となった出来事や過去にさかのぼって、親など身近な人からの関わり方を一緒に振り返ったりします。
そうしながら、心をほぐしてゆくイメージです。
現実的にこのレベルまで対応するにはカウンセリング、コーチング、モチベーティングなど専門的な知識と経験が必要ですが、基本は「今、なぜ、彼(彼女)はそういう考え方なんだろう?と興味を持って接してゆく事が大切です。
彼らがそうなった背景には「放っておいた」時間の長さにも原因があるからです。
いずれにしても「自信がない」と言う人は大人しい、弱弱しい印象を持ちますが、経験上意外と「頑固者」が多く、少々骨が折れます。
4. 意欲が高く、技能も高い
この領域に当てはまる人は、基本的には優秀な人ですが、優秀であるがゆえに「視界」が狭くなる可能性があります。
どんな優秀な人でも「当事者」は自分を俯瞰して観ることが難しいからです。
なので、「ここはどうなの?」「これは見えているの?」という風に「問い」を立てながら、視考感体積(視野×視座×感情)を広げる機会を提供する必要があります。
優秀だからといって放置すると、組織から逸脱した考えや発想を持つ可能性があり、ある日突然「退職願」を出すという事が起こりえるからです。
こういう人には「会社の中で頑張る」という事と「個人の未来構想」を結びつけて考えられるようにコーチングしながら、ケアしてゆく事が求められます。
それでも、場合によっては、会社から出てゆく方もいるかもしれませんが、良い形で出られるようにしてあげる事も大切かと思います。
なぜなら、自分の「思い込み」のみで判断し動くと本人が、後で後悔するような状態にもなり得ないですし、仮に会社を辞めたとしても「良い関係を続ける」事ができれば、違う形で会社に貢献してくれることもあるからです。
今回は、部下に対する個別対応をシチュエーション型リーダーシップ理論に沿って、お話ししてきました。
現実的に考えると、部下はこの4種類に分かれるわけはないので、この通りに対応してもうまく行かない事も多いと思います。
ただし、軸としてこういう考え方を持った上で部下育成を考えていただく事で、成長の「手がかり」が見つけやすくなります。
部下ごとに戦略を立てながら、できれば他の関係者からもヒアリングし、どういう接し方が良いのかを4つの領域を参考に考え、実行、修正してゆくイメージです。
弊社では、個別対応型コーチングに関しても研修メニューをご用意しておりますので、ご興味があればお声掛けください。
次回は個別対応をさらに発展させてゆくグラデーション型育成についてお話ししたいと思います。