先日ある組織コンサルの社長とお話しする機会がありました。
その社長は素晴らしい方で、生まれながらに障害を持ったお子さんのために経営者になった方です。
経営者の方が時間もお金も自由になると考えたそうです。
凄いと思ったのは、その方がコンサルの対象にしているのは「自分が変わらなければならないと感じていらっしゃる社長」さんだけ。
そう言う方しかクライアントにしないという方針だそうです。
そうやって、自分のストライクゾーンを決めて、経営をしているところは純粋に凄いと思います。
なぜなら、決めるという事は「捨てる」という事とセットなので、勇気と覚悟がいるからです。
確かに自分から変わろうと考えている方がトップであったら、会社を改善するのはそう難しい事ではないかもしれないなと思いますし、そう言う社長さんが増えて行って欲しいと心から願っています。
ただ、その社長と話をしているうちにある事を思い出しました。
それはコーチングを学び始めた頃に先輩達から言われた事です。
「コーチングは万能ではない。コーチャブルな人じゃない人にコーチングしようとしてはいけないよ。効果ないから」という事です。
その時は、何の疑問も持たなかったのですが、組織育成やリーダー育成などで企業と関わってゆくうちにだんだん疑問を持つようになりました。
コーチャブルな人というのは、目的、目標を持って自ら行動する意思のある方を言いますが、「そんな人どれだけいるのよ?」と思ったわけです。
だったら、言われた事、やらなければならない事を、忠実に、真面目にやる事が何より大切であると思っている方が圧倒的に多く存在するであろう日本という国で、コーチングは役に立たないのではないか?そんなふうに思った事もあります。
でも、同時に浮かんだのが、日本人に合う形のコーチングがあるのではないか?という思いです。
日本人は、古くは大陸から、近代は欧米から伝わってきたものを日本人に合った形にカスタマイズして発展してきました。
だから「日本人に、日本という国に合ったコーチングも創れるはずだ」と思い、その時から答え探しを続けてきました。
そして、なんとか朧げながら、その答えが見えてきているので、それを何回かに分けて、お話ししてゆきたいと思います。
題して「受身組織を改革するコーチング」です。
通常のコーチングと何が違うの?と思われるかもしれませんが、本当の意味でコーチングが機能するようにする為には、主体性を育てる前段階が必要だと思っています。
先ほどの表現を使うとすると「アンコーチャブル」な人を「コーチャブル」に進化させてゆくという事です。
もっと端的に言えば、受け身の人を、閉じ籠っている「殻」から引き摺り出し、自分の意思で進むようにする為のアプローチです。
第一回目の今日は「誰にも意見はある」です。
どんなに受け身の人であっても、与えられた業務の中で「これって、無駄が多いな」「なんでこういうやり方なのだろう?」と疑問に思う事や、何か改善のアイデアや気づきを得る事があります。
ただ、長年の習慣から、気づきや意見を必要のない事として、心の奥底に押し込めてしまうのです。
大した事じゃないし、言ったところで自分の意見なんか取り入れて貰えるはずがない、場合によっては馬鹿にされるかもしれないと決めつけて、自我を捨てているだけです。
もし「そんなはずはない。あいつに意見なんか…」と思ったら、聞いてみてください。
「君にやってもらっている業務なんだけど、より皆から喜ばれるようにするにはどうしたら良いだろう?小さな事でも良いから、二つ考えてみて!」と。
この質問には工夫が三つあります。
一つは「皆から喜ばれるようにするには」です。
人にはいろんなタイプがいて、自分でモチベーションをコントロールできる人もいれば、他人に感謝される事がモチベーションになる人もいます。
基本的に受け身の人は後者が多く、感謝される事を最大のモチベーションにしている方も多いのです。
したがって「皆から喜ばれるように」という目的は、受け身の相手に「やってみよう」という気を起こさせるキーワードなのです。
二つ目は「小さな事でも良いから」です。
上から意見を出せと言われると「ちゃんとしたものを出さなきゃ」と思い、思考や行動にブレーキがかかってしまいます。
だから「小さな事でも良いから」の一言があるとハードルが下がって、考えやすくなるのです。
三つ目は「二つ考えて」という言葉です。
「何か考えてみて」「なんかない?」という指示を出す事は日常でよくありがちではないかと思いますが、言われた方としては、指示が抽象的で働きかけとしては弱く、始動しにくいものです。
だから「二つ」という言葉をセットにして依頼する事で、指示の具体度が高まり、具体的に動きやすくなります。
ちょっとした言葉の違いで人の心は動くもの。
試していただけると嬉しいです。
それから、もう一つ大切な事をお伝えします。
結果として出てきた答えが、あなたからしたら「そんなのは試したよ」とか「そんな事か?」と思うようなレベルのものかもしれません。
でも、その人なりに考え、答えを出したという事が大きいのです。
この一歩を次に繋げるためにも「ありがとう」の言葉で応えてあげて欲しいです。
さらにその後、その意見をどう扱ったのかについても必ず伝えてください。
仮に不採用の場合でも否定する事なく、次へのヒントを出して、さらに考えるように促してください。
人は自分が期待されていると感じたら、必ず期待に応えたいと思い、動くものです。
私の経験上、低評価だった人が、上司の関わり方が変わった事で変容した例は数多くあります。
受け身を変えるには期待して働きかける事から!
放置するのは、その人を軽んじているというメッセージを送っているのと同じである事を忘れないでいただきたいです。